よしかわ杜氏の郷通信

 よしかわ杜氏の郷のトップページよしかわ杜氏の郷通信トップ  34≫2010年5月30日

 ロハスな農村・よしかわの自然は、毎日違った表情を見せてくれます。
 私たちはそんな移り変わる自然の姿を目にしては、喜んだり悲しんだり…自然と喜怒哀楽を共にする暮らしをしています。
 そんなよしかわの姿をほんの少しですが紹介していきたいと思います。
 お気に召しましたら「よしかわ」に一度遊びにきてください。

よしかわの春仕事

稲の圃場に<土壌改良剤>を入れているところ雪が溶け始めると、よしかわの農家は一斉に動き出します。冬の積雪で傷んだ用水や道路の修理、山間地では雪のために倒れた木の除去などの「春普請」。同時に、もう苗代作りもスタート。ほかにも自然薯の種芋の準備などなど、次の収穫のための仕事が毎日、目白押しです。写真は、稲の圃場に<土壌改良剤>を入れているところ。よしかわの<土壌改良剤>は、<籾殻>を腐熟させたものです。

よしかわの酒米やコシヒカリは<永田農法>で栽培しています。「永田農法」とは、水や肥料の使用を最低限に抑えて作物を育てる方法で、「スパルタ農法」という別名もあります。水や肥料を最小限にしか与えないと、稲や野菜は飢餓状態になり、懸命に根から養分や水を吸収しようとして活性化します。すると、地中の養分を吸収するために根を発達させ、余分な栄養を摂らないために植物は頑健になり(メタボの反対、ということです)、風味豊かで栄養価の高い収穫物が得られるのです。稲の場合は、お米の食味を悪化させる原因となったり、お酒に雑味を与えてしまうタンパク質が少なくなり、また糖度も高くなって、より美味しい食米や、旨いお酒を仕込むことができる酒米ができます。

そして、この籾殻で作った土壌改良剤が頑健な稲を作るための大きな役割を果たすのです。永田農法では根をしっかり成長させることと、頑健な茎を作ることがポイントですが、籾殻には植物の根の成長に重要な役割を果たし、植物の三大栄養素のひとつである「カリ」成分と、根や茎を頑丈にする「珪素」成分がたっぷり含まれているからです。 この「珪素」を重視するのが、永田農法の際立った特徴。美味しいお米の基礎を作るのが籾殻の土壌改良剤、というわけです。

腐熟させた籾殻。発酵のため、熱くなっています。 土壌改良剤の話
腐熟させた籾殻。発酵のため、熱くなっています。籾殻を使用するのは、実は大変。籾殻の表面には、水をはじいたり、害虫や病気から守るためガードするための分質(これが珪素を含んでいます)がコーティングされており、容易に腐らないからです。そこで、私たちはその籾殻を腐熟させ、籾殻の珪酸分などの成分を土壌の改良に有効に利用するための製造機を見つけ、それで籾殻を処理することでようやく腐熟を行えるようになりました。今でも全国広しともこの機械で製造しているところは少ないと思われます。

生命体の体の組織を強固にし、根の張りを良くし、窒素分の利用を旨くコントロールして美味しい作物を作るのが永田農法。自然界の物質で作物を健全に育て、環境にやさしい栽培をすることも永田農法の原点です。よしかわでは、永田農法を始めたときから一貫して窒素肥料は使用せず、永田農法で育てた稲の籾殻で作ったこの改良剤のみで栽培しています。

腐熟途中の籾殻。まだ籾の形が見えています。
写真左:腐熟途中の籾殻。まだ籾の形が見えています。
写真右:腐熟中の籾殻。奥・中・手前の順に腐熟の度合いが進んでいます。腐熟とともに、色が濃くなっていきます。

育苗
いよいよ田植えの季節が迫りました。降雪が多かった今年は、雪が消えるのが遅くなり、例年より1週間ほど遅れての田植えになりました。よしかわでは、早稲種の酒米「五百万石」から始まり、「越淡麗」を経て晩生種の「コシヒカリ」、酒米「山田錦」と、3週間から1ヶ月の間順番に次々に植えられていきます。田植えを前にしたこの時期、私たち米農家は<代掻き>など圃場の世話と同時に、<苗作り>に追われます。ところで「田植え」とは、言うまでもなく稲の「苗」を圃場に移植することですが、「育苗」と「本田での栽培」が別、というのが日本の米農業の勘所。

小麦の場合のように稲を直播で育てると発芽率が悪くなり、また若い芽の時点で虫害やウイルスの害にさらされ、ちゃんと成長する確率が低くなります。その結果収量が低くなり、品質が揃ったお米を作ることが困難になってしまいます。そこで、ある程度まで育った健全な苗だけを水田に移すことで、高品質のお米が高収量で収穫できるようになったわけです。

さらに明治時代以降になって、苗代に覆いを掛けて保温する技術が開発されると、そのおかげで田植えの時期が早められ、日照不足や冷害の被害を受けやすかった寒冷地の東北地方でも、お米が安定して生産できるようになりました。「苗代」というのは、画期的な大発明。日本であたりまえのようにおいしいお米を食べられることができるのは、苗代と本田が別になってからのことなのです。

ハウス内の苗「苗」の話。
特に大事なのが「苗の質」。「苗半作」と言う言葉の通り、苗の善し悪しがその年の作柄の半分を決定するからなのです。苗の質は収量や品質へ大きな違いをもたらします。熱湯で消毒し、選別された種籾は育苗箱の中で厳密な管理のもとで育てられることで虫やウイルスの害を排除し、苗の背丈や葉の位置や枚数、根の状態…田に植えたその瞬間から稲が元気に成長ができるよう、細心の注意を払ってベストな状態に育てられます。

田植え直前の苗。田植え直前の苗。緑も濃く、茎もしっかりとし頑丈で、根もたくさん出ており、理想的な状態に育っています。籾から出芽後3週間ほど、丈は13〜14センチです。苗の一番下の葉が付くところを「腰」、その下の部分を「足」と呼び習わしていますが、その足の長さが3〜4センチになるように育てるのも重要なポイント。足が短いと田植え後水を引くと水没してしまい、傷んでしまうのです。苗の質が良くないと、植えてから冷温や風で痛んだり、根の伸長や分けつが不十分になったり、穂が減少したり、また生育が不揃いになって、適切な栽培管理が出来なくなってしまうようなことが起こります。そこで私たちはしっかりした健全な苗を育てるべく努めるわけです。お酒の世界では「一麹・二もと(酒母)・三造り」と言って、お酒作りの最初の段階である「麹造り」が一番重要とされています。ちゃんとした麹が出来ないと、あとで取り返しがつかないから。稲作りの場合に「苗の出来」が重要なのもそれと同じなのです。

田植え。
セット開始直後のもの作業は早朝、育苗箱をトラックに積むところからスタートします。広い圃場への田植え場合、何度もいったりきたりを繰り返しての運搬になります。育苗ハウスから苗を運搬すると、こんどはそれを田植え機にセットします。

圃場には既に4月のうちに籾殻を腐熟させた土壌改良剤(堆肥)を施し、苗の移植に適した土塊の大きさに土を砕く「耕起作業」(他にも、前年の稲の茎や根、雑草などを土の中にすき込んで腐熟を促進させたり、土の中に空気を入れて乾燥を促進し、有機態窒素を無機化させる(乾土効果)等の意味があります)や、耕起した水田に水を入れて行う「代掻き」を済ませてあります。また、地面を水平に保つ「均平作業」も重要。水田では水を蓄えて水稲を作りますが、圃場が凸凹だと、凸の部分には雑草が生えやすくなり、凹の部分では苗が冠水したり、圃場全体の排水がうまくできくなったりしてしまうようになるからです。圃場内の水深のムラは生育のムラにもつながります。

要するに田植えの前には、稲が育ちやすく、また育てやすい条件をすべて整えておくわけです。このような作業は基本的には皆昔ながらのものですが、今の科学に照らしても化学的にも、植物学的にも、微生物学的にも合理的そのもの。生態系やエコロジーなどの観点からも納得できるものです。昔科学の知識などなかった時代に、鋭い観察力と経験の力だけでこのようなシステムを作り上げた先人には、頭が下がるばかりです。さらに言えば「水田」というシステム自体も画期的な優れた発明でした。陸稲を含め殆どの作物が連作障害を起しますが、水田は水をためることによって土の中が酸素不足になり、稲に害をもたらす微生物や菌類が生きられないこと、また水によって有害な物質が洗い流されるため連作障害が起きず、きちんと圃場の手入れをしてさえいれば、毎年健全な稲を育てることができるのです。あたりまえのように食べているお米は、水田という優れたシステムがあってこそなのです。

田植え機で田植えを行っているところ。よしかわでは田植えの際、苗の間隔を広く開けて植えます。一坪当たり40〜50株。昔は1坪70〜80株を植えていました(現在でも同様に育てている地域もあるようです)が、間隔を広く開けて植えることで風通しがよくなり、根本まで光が差すようになって、稲は分けつが良くなり、また根も広く長く伸び、茎は太く穂が長く育つようになります。田植え機では、50アール(5000平方メートル)の田圃を2時間で植えることが出来ます。その昔、手植えの時代には「一人一反(=約991.7平方メートル=約10アール)植えられれば一人前」とされていましたから、この50アールは、昔なら5人がかりで丸一日かかった面積ということになります。

田植え直後の苗の様子 田植え直後の苗の様子。水はごく浅く入れてあります(浅水管理)。田植え直後の苗はまだ根が短く、土にしっかり根づいて(活着して)いません。水を深くしておくと、風が吹いたときに大きな波が立ち、苗が倒れてしまったり、抜けてしまったりするので、それを防ぐことが目的です。また、水が浅いと昼には水温が高くなり、夜には低くなって日格差が大きくなり、それが根の生長や分けつを促してくれるという効果があります。稲の初期の生育には水温の管理が重要で、これから先ずっと、生長の段階や気温等の状況に応じて水の量を調節していくことになります。

苗についてお話した際、苗作りをお酒の麹造りに例えましたが、お酒作りと米作りはとても似ています。麹菌の性質をよく観察して知り、麹が上手く生育する条件を整えコントロールするのが酒造りなら、稲の性質をよく観察して知り、稲が上手く生育する条件を整えコントロールするのが米作り。よしかわは昔からの米どころであり、元禄時代には27の集落すべてに酒蔵があったほどの酒どころ。春から秋にかけて一生懸命お米を作った昔のよしかわのお百姓さんが、冬にはお酒を造ったのはもっともなこと。お米をしっかり育てるための観察眼と技術、そして“もっと美味しく”という工夫が、そのまま酒造りに活かせたのでしょう。むしろ酒造りは米作りに似ている、と言ったほうが良いのかもしれません。

田植え後の圃場の景色です。背景は霊峰、尾神岳。尾神岳のブナ天然林に降り積もる雪の雪解け水が、尾神岳の中の鍋状の岩盤に溜り、それが湧水となって、一年中よしかわを潤します。その湧水が米を育て、同時にお酒の仕込み水となります。幸い雪の多かった今年は、夏の水不足の心配なしに米作りができそうです。

何十年前・何百年前の農家が見た田植え後の景色もほとんど今と変わっていなかったでしょう。この景色を見るたびに、同じ景色を眺めたに違いない、何十年前・何百年前の人たちのお米作りの知恵に思いを馳せてしまいます。いろいろな人のいろいろな経験と智恵の集積が、今のよしかわの高度な米作りそして酒造り。農家一人ひとりの「もっと美味しく」という執念とトライアンドエラーの実践が、今の米作りや酒造りを成立させたのです。私たちの世代も「もっと美味しく」へ向けて、未来への遺産を作らなければ。田植え後の田圃を眺めていると、むくむくとそんな気持ちがわきあがってきます。

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